破片
小学生の頃、ギア付きの自転車が流行った。
御多分に洩れず、両親にワガママを言い、5段変速の自転車を買ってもらった。
前方にライトが二つ。
後輪のタイヤの泥除けにブラケットが付いていて
折りたたみ式の籠が付いている。
近所の友達もみな同じような自転車に乗っていた。
7歳の誕生日プレゼントだった。
新しい自転車に乗りたくて急いで学校から帰る日が続いた。
小学校と幼稚園の間を抜ける細い路地。
川の土手から下った先にあるその路地には大きな下水の暗渠が横断していた。
その日は、下水の工事のため、道路を掘り起こしていた。
掘り起こされてた穴の上に、幅1メートル程度の鉄板が架けられ、仮設通路ができていた。
子供だった僕らは何の躊躇もなく、仮設通路を自転車に乗ったまま走った。
その通路を何度か行き来していると、その様子を見兼ねた作業員のおじさんが、
僕らに向かって一喝。
前を走っていた友達が驚き急停止。
僕は避けようとハンドルを切ったが、狭い仮設通路では逃げる場所がなかった。
片方のライトカバーが友達の自転車に衝突し、プラスチックの破片が飛び散った。
幸い、友達も自分も怪我はしなかった。
自転車を壊してしまったことに動揺した僕は、
急いで割れた破片を拾い集めポケットに入れた。
家に帰り、拾い集めた破片をつなぎ合わせてみたが、うまく補修できなかった。
真新しい自転車の割れているライトはとても目立った。
買ってもらったばかりの自転車が壊れてしまったことが
この世の終わりのように悲しく、懸命に補修しようとした7歳の夕方。
あの時の悲しさの質感は今でもしっかり覚えている。