150427 術後4日目
入院中の看護師の回診は朝、昼、夕方、夜の4回で、
体温と血圧、血中酸素量を測定する。
今朝の体温は37度、血圧も正常値だ。
身体がとても楽になった。
頭もかなりスッキリした感じがする。
もちろんヒザの疼痛は相変わらずで、
鎮痛消炎剤を飲まなければ、一気に体温が上がるだろう。
朝食は相変わらずのボリューム。
納豆が出たのにかき混ぜるのが面倒で食べなかった。
大好物なのだけれど、入院の不自由さからか少しのことが煩わしい。
ヒザが悪いだけで、他はなんともないのに、人間というのは不思議なものだ。
食べなかったことをしばらくしてから後悔する。
トイレから戻ると、同室のYさんの奥さんがいらっしゃった。
午前9時。家族は手術の2時間前に来なければならないので
午前11時に手術予定ということになる。
担当医や看護師が入れ替わり立ち替わり手術の説明をしている。
とても明るく丁寧な説明で好感が持てる。
自分も数日前はあんな様子だったのだろう。
どうやら昔は学生ラグビーを本格的にやっていた人のようだ。
昨年の夏、趣味でやっていたラグビーで
右ヒザの前十字靭帯を断裂してしまったとのこと。
Yさんは人工関節を販売するメーカーに勤めているようだ。
担当医とも旧知の中のようで、他愛のない話で談笑している。
医療関係の仕事ということは
病院の実績や技術などの情報をしっかり持っているはず。
そういう方が、前十字靭帯の再建手術を受ける病院として
この病院を選んでいるというのはとても心強い。
実績という意味では、他の人からも幾つか話を聞いていた。
入院前、自分の足に合わせた装具を作るため右足の採寸をした。
アメフトの防具のようなイメージの装具で、
術後の3ヶ月間、これを装着することになる。
その業者さんによれば、ここの病院は前十字靭帯の再建手術を
年間180件前後扱っているらしい。
割り返せば、2日に1件のペースで手術をしていることになる。
ここの病院を選んでいれば間違いないですよと太鼓判を押された。
もうひとつ。看護師との雑談の中でのこと。
他の地域に比べて、関東地方は前十字靭帯の再建の手術が多いらしい。
特に千葉の⚪️⚪️病院、東京の❌❌病院、神奈川ならうちと▲▲病院に
実績があるし、国内でも最高レベルの技術があると思いますとのことだった。
術後直ぐで朦朧としていたため聞き流していたが、
そんな話が頭の片隅にひっかっかっていた。
元はと言えば、2月にケガをした直後、
どこかの病院に行こうとしたが、昨年の夏に今の住まいに越してきたばかりで、
近くの病院の評判をほとんど知らなかった。
家人の母上のツテを頼り、最寄駅近くの整形外科を紹介してもらった。
先生は50歳前後で物静かな方だったが、
言葉の端々から診察について自信のあることが伝わってきた。
また趣味でトライアスロンやマラソンを楽しんでいるアスリートでもあり、
様々なケガをした経験があるとのことだった。
仮に前十字靭帯を損傷したら、私だったらここで再建手術を受けますと
紹介してくれたのがここの病院だ。
ここ数ヶ月、ケガや仕事の調整、写真展の準備、
入院の準備等々で病院の良し悪しまで正直頭が回っていなかった。
今になって状況を整理してみると結果的にいい病院にたどり着いていたようだ。
足の曲げ伸ばしのトレーニング。今日の午前は60度を30分間。
想像していたよりも抵抗なく曲げることができたが、
ヒザの腫れのせいか皮が突っ張り、これ以上曲がるのか不安になってきた。
ちょうど回診に来た担当医にその話をしたところ、
腫れが引かないようなので注射で水を抜くことになった。
あとで看護師から聞いた話だけれど、術後に2度も注射で水を抜くのは稀なことらしい。
よく頑張りましたねと褒めてもらえた。
注射の針の痛みはある程度覚悟していたので
ほとんど気にはならなかった。
耐え難いのは、腫れ上がったヒザの皿周りや裏側を揉み、水を押し出す所作。
あまりの痛さに目は潤み、声にならない声が出そうになるが、ぐっと声を押し殺して我慢する。
今回は30ccの水が取れた。注射を終えて数分すると、ヒザの張りはだいぶ楽になった。
人間の身体は本当に不思議だ。
午後は65度を15分。楽に曲げることができた。
シャワーも二回目。着替えなども少しコツをつかんだ気がする。
はっきり言ってとても時間がかかる。
一人あたり30分の時間が与えられているのだけれど、
目一杯時間がかかってしまう。
シャワーで気持ちよくなったが、自分のベッドに戻るころにはヘトヘトになってしまった。
布団を跳ね、右ヒザに氷のうを二つ乗せる。
ヒザが熱を持っているせいか、氷のうの冷気を全く感じない。
あまりに冷気を感じないので氷のうを触ってみるが、
袋には間違いなく氷がギッチリ詰まっている。
両親が顔を出してくれた。
母は先日胃の検査で一悶着あったので、どんな様子か心配していた。
胃の調子はあれから悪くないとのこと。
夕飯は刺身が食べたいとか言っているあたりからして大丈夫なのだろう。
別の病院で構わないのでしばらくしたら検査を受けて欲しいと言った。
息子の痛々しい姿を見たからかはわからないけれど、再検査を約束してくれた。
両親が帰るのと入れ替わりで手術を終えたYさんが病室に戻ってきた。
やはりかなり辛そうだ。
学生ラグビーで鍛えていても、それとこれとは別なのかもしれない。
直接様子は伺えないが、看護師とのやりとりの声からその体調を推し量ることができる。
奥さんが傍にいるようだが、あまりに辛そうなご主人の様子に言葉も出ないようで、
手術前のような会話は全く聞こえてこなかった。
しばらくの間、病室には奥さんのすすり泣くような声が静かに響いていた。
面会時間ギリギリまで奥さんはYさんに付き添っていた。
消灯時間になってもなぜか眠れなかった。
携帯に家人からのメッセージが入る。
月末が近いため、仕事の帰りが遅くなったようだ。
夫がこんな状態で仕事も忙しいと疲れてしまうだろう。
少しでも力になりたいのに、一体自分は何をやっているんだろう。
救いなのは次の水曜日が休みで、
そのあとの週末から5連休が待っているということ。
それまでどうにか乗り切って欲しい。