150430 術後7日目
前日比95%程度の割合でヒザの痛みは徐々に和らいでいる。
昨日の痛みと比べたら微々たる変化しかない。回復の遅さがもどかしい。
年齢のせいかもしれない。
ただ、手術直後に比べれば雲泥の差。
人間の身体は日々、新しい細胞を生み出して成長している。
新たに生まれるヒザの周りの細胞が成長し、
しっかりその役割を果たすようになってくれれば、
徐々に痛みは無くなっていくはずだ。時間がかかるのだろう。
身体の組織を維持するため、細胞は新しく生まれ続ける。
しばらく経つとまた新しく生まれた細胞と入れ替わる。
去年の自分と今の自分の身体の組織は同じように感じるが細胞レベルでは全く違うものになっている。
そうすると、自分というのは一体何なんだろうか。
人間ていうのは本当に不思議だ。
8時30分。
シャワーの時間の予約を取るため、車イスでナースステーションへ向かう。
朝食が終わった時間。
顔を洗う人や歯を磨く人で洗面所が車イスで混雑している。
先だっても思ったけれども、やはり整形外科病棟は若い人が多い。
数年前、盲腸で入院した時、同じ病室はもちろん、
病棟全体が年配の方たちばかりだった。
おそらく、ガンやなにやら大変な病気の方もいたのだろう。
そういうこともあり、病棟自体が恐ろしく静かだった記憶がある。
看護師の夜勤から昼勤の引き継ぎの時間のようだ。
ナースステーションはいつにも増して人が多い。
術後7日を過ぎたこともあり、整形外科病棟を担当する看護師を覚えてきた。
継ぎ目なしに患者をフォローしてくれるので看護師のみなさんは
ナースステーションに住んでいるんじゃないかのような錯覚を覚える。
もちろん仕事なわけだから、勤務表に基づき、昼勤、夜勤の割り当てがあり、
休みがあり、家があり、家族がいたりするのだろう。
改めて言うこともないけれども、看護師の仕事はものすごい重労働だ。
お世話になる度にそう思う。
検温や血圧測定などの医療的な業務はもちろん、
自分のような無駄に図体の大きい男性のトイレ介助の仕事もある。
身体が弱ったご老人の介護、話し相手など、多岐に及ぶ。
数日前、夜勤の看護師さんにちょっと頭が痛いと雑談程度のつもりの話が
昼間の看護師さんにもきちんと伝わっていた。
そんな些細なこともきちんと申し送りしておいてくれるのはとても心強い。
9時半。担当医が回診に来てくれた。
今日は平日なので外来の患者が来る日でもあるから、
この時間に回診があるとは思っていなかった。
足を伸ばせるかと言われたので、氷がギッシリ詰まった氷のう2つをヒザ頭から外す。
氷のうは最初1つだったのだけれども、
あまりに腫れがひどいので昨日の晩から2つ使うことになった。
ヒザは相変わらず熱を放出している。氷のうが2倍に増えても冷たさを全く感じない。
装具を足に固定する4カ所のマジックテープを外す。
ヒザに巻いている包帯に触れて、初めてものすごく冷えていることに気がつく。
ベッドの上に右足を放り出し、伸ばしてみようとするが伸びきらない。
ヒザ裏が数センチ浮いているようだ。
シーツに触れる感覚がない。
同じように伸ばしている左足のヒザ裏はぴったりとシーツに接している。
次に、うつ伏せになり膝下をベッドの外に出すよう言われる。
手術をしていない左足は自然な形でベッドの外に出せた。
右足はヒザが伸びきらないため、少し曲がった形を保ってしまう。
少し曲がった形を保っている姿勢であるため、
右足全体の筋肉におかしな力が入り、全身から玉のような汗が吹き出る。
力を抜くように何度も言われるが、
足の重みが右ヒザにじんわりと響くため、力を抜くことができない。
数十秒のことだったが、何分もきつい筋トレをしたような感覚だ。
担当医によれば、足を曲げることも重要だけれども伸ばすのも同じくらい重要だそうだ。
確かに、ヒザを伸ばした姿勢は一番靭帯が伸びきった姿勢でもある。
曲げのトレーニングに併せて、伸ばすトレーニングもするよう言われた。
4人部屋の病室に新たな患者さんが一人増えた。
晴れて我が病室は満室になった。
Jさんは左膝の半月板を損傷しているらしい。
看護師の説明を伺い聞いていると、半月板の手術は3泊程度で退院できるようだ。
痛みも軽いのだろうか。どの程度の差異なのか。
後学のため、話せたら聞いてみたいと思う。
今日は来客の予定がなかった。午後はかなり時間があり、ゆっくり過ごした。
持ち込んだレイモンドカーヴァーの本を少し読み始めてみる。
読みだすと幾らでも読めるのだけれども、興に乗るまでに時間が掛かる。
そういえば、入院してから全くテレビを見ていない。
小さい頃はテレビがないと生きていけないくらいだったけれど
この10年で体質が完全に変わった。
自分の場合、情報を一方的に投げつけられる媒体に長い時間触れていると、
自分の頭で物事を考えるプロセスを蔑ろにしてしまうクセがあるようだ。
必要な情報はキチンと系統立てて、自分で取捨選択し、整理する。
つまらない番組で時間を潰さない。
そういうふうにしていたら、ほとんどテレビを見ない生活に耐えられるようになってきた。
16時を過ぎるころ、隣の病室の高校生の友人が大挙してお見舞いに来た。
ラウンジからたくさんの明るく楽しそうな声が響いてくる。
それにしても、今年の正月、こんな形でGWを過ごすとは夢にも思わなかった。
人生何があるかわからない。
ヒザ曲げのトレーニングは明日、いよいよ90度に挑戦する。
地味だけれども少しずつ、ヒザの可動域は広がっている。
とても静かで孤独なトレーニング。
全快したら、家人と山登りに行こうと約束している。
中途半端にせず、きちんと治したい。