先鋭化セヨ
断裂していた右膝の前十字靭帯を再建するため、
4月の下旬から今日までの18日間入院していた。
手術は、自分の足の腱(薄筋腱と半腱様筋腱)を切除して代替の靭帯を作成する。
大腿骨と脛骨に穴を開けてスクリューなどで代替の靭帯を固定するもの。
手術は成功。これから長いリハビリがはじまる。
前十字靭帯を損傷してから
しばらく月日が経ったため面白い現象が起きていた。
前十字靭帯は大腿骨と脛骨を結合する4本の靭帯のうちのひとつ。
一度断裂すると再生することはほとんどないと言われている。
御多分に洩れず自分の靭帯も再生することはなかった。
人間の細胞は少し前まで約60兆個と
言われていたが最近では約37兆個というのが説らしい。
再生できない前十字靭帯をどうにか再生しようと
その約37兆個の細胞の一部が驚くべき活動を始める。
大腿骨と脛骨が靭帯の代わりをしようと、
前十字靭帯のあった部分の骨が突き出て尖ってくるのだ。
自分の右膝もまさにこの現象が起きていた。
大腿骨と脛骨のレントゲンを確認すると
前十字靭帯のあるべきところに突起状に骨が出っ張っていた。
このことを「先鋭化」というらしい。
もちろんこれが繋がったところで、
「骨」なわけで、靭帯の代わりなど務まるわけはなく、
それどころか歩行出来なくなってしまうのだそうだ。
面白いのは、本体としての自分は、
靭帯の自然再生を完全に諦めているのに、
膝の関節周りの細胞たちは、
諦めもせず、幾らかのエネルギーを集めて
靭帯に代わる何某かの物体の再生に力を尽くしていたわけになる。
言わば、右足の大腿骨と脛骨が体内に吸収された
カルシウムをせっせとかき集め、その再生に燃えていたと思うと、
はっきり言って全くもって意味はないけれども
よく頑張ったと褒めてあげたくなった。
ちなみに、その先鋭化された骨は、今回のオペで完全に削り取られた。
今ごろ、右足の大腿骨と脛骨は大きなパラダイムシフトを迫られ、
慌てふためいていると思う。
新しく入ってきた代替靭帯への驚きと戸惑い、
そして再生という職を失った膝周りの細胞たちは
そのエネルギーをこれからどこに使うのだろう。
膝周りが熱を持って仕方がないのは
その影響なんだろうと思う。