150423 手術後
遠くに聞こえる声。
どうやら自分を呼んでいるらしい。
呼びかけに応えようとするがうまく声が出せない。
それにしても瞼が重すぎる。
力を入れて瞼をこじ開ける。
白く強い光が視界いっぱいに広がり、目を開け続けられない。
麻酔の影響で瞳孔の調整がうまくできていないらしい。
諦めて目を閉じ、周囲の声に集中する。
一番多く聞こえるのは担当医の声だ。
誰かに手術の結果を説明している。
医師の説明の合間に相槌をうつような声もしている。
近くに家人がいるのかもしれない。
自分の姿をどこかで見てくれていると思うと少し安心する。
手術は終わったんだと認識する。
担当医の声が綴るいくつかの単語。
前十字靭帯、半月板、骨、腱の太さ、云々云々。
単語は聞き取れるけれど、頭の中で単語が文にならない。
英語のリスニングをしているような感覚。
日本語なのに説明が全く理解できない。
どうにかしようとなんども思考を掘り下げるが、集中力も続かない。
諦めて目を閉じる。
気がつくと病室に戻っていた。
病室に差し込む日の光から16時は過ぎていそうだ。
手術開始が11時前後、仮に3時間の手術だったとしても
14時には手術は終わっている。
数分目を閉じたつもりだったけれど、思ったより長く寝ていたようだ。
傍に座っている家人に話をしようと声を出す。
胸が息苦しく、大きく声が出せない。
気分がものすごく悪く、今までに経験のない悪寒がする。
右足の感覚はないがかなり頑強な装具で保護されているようだ。
足の下には台座のようなものがあるようで、足が少し持ち上がっている。
身体があまり起こせないので、自分の姿を確認することができない。
ベッドから頭を少し起こした拍子に
廊下にいる父と家人のご両親の姿が見えた。
無事に手術が終わったので今日のところは引き上げるとのこと。
点滴針のない右手を振る。声はあまり出せない。
ほとんど話はできなかったが、
近くにいてくれたのはとても心強かった。
入れ替わりのタイミング。
担当医が病室へやってきた。
手術について説明をしてくれた。
内視鏡で撮影したヒザの関節内の写真をみると
施術後の写真の中央に縫合された代替靭帯らしきものが確認できた。
ただ残念なことに、頭に説明された言葉たちが留まらない。
内容は後で家人に聞くことにしよう。
担当医が徐に、自分の右ヒザの装具を外した。
身体は起こせないが、風船のように腫れたヒザ頭らしき物体が見える。
赤黒く光っていて、自分の足とは思えない。
右ヒザの上部からのドレーンパイプがヒザ内部の水分や血液を排出する。
担当医はその量が少ないことを気にしているようだ。
ちょっと見ますよというセリフと同時に、
担当医が躊躇なく自分の右膝を揉み始める。
ヒザ周りに溜まった水分をドレーンに押し出そうとしているらしい。
経験したことのない凄まじい激痛に身を捩らせる。
この状態が続くようであれば、
注射で抜き取りましょうという説明を受けた。
右ヒザの触診で完全に麻酔から目が覚めた。
触診された時の様子を家人も見ていたが、
痛さであんな顔をした人を今まで見たことがないと同情してもらえた。
朝からの長丁場だからと家人を労い、しばらくして家人も帰宅していった。
気づけば19時近くになっていた。
消灯後、一度眠りについたが、悪寒で目が醒める。
右ヒザの違和感もあるが、身体の節々も痛む。熱があるようだ。
ペットボトルの水を口に含むが、鉛のような味がする。
左腕の点滴針が煩わしく、携帯電話を探すことも煩わしい。
寝ているのか起きているのかわからない朦朧とした状態は朝まで続いた。