150423 手術前
深夜は耳栓をしていたので気にならなかったけれども
病棟にはいろいろな音が響いている。
ナースコールの音、隣の人の寝息や寝返りの音など
普通なら気にならないのかもしれないが
手術当日の朝で気分がいつもよりも繊細になっているからか
らしくもなく5時ごろに目が覚め、
ベッドの中で雑多な音に想像を巡らせた。
昨晩の21時から絶食、朝の7時までは水分を取ることができた。
ベット脇のサイドボードには16インチの液晶テレビがセットされている。
サイドボートに組み込まれた冷蔵庫からペットボトルを取り出し
一口分をゆっくり飲み込む。
12年前のヒザの怪我で前十字靭帯を痛めていたらしい。
「らしい」というのは、当時のMRIの精度は現在より悪かったようで
損傷自体を断定するのは難しかったようだ。
当時は、後十字靭帯の損傷という診断をされた記憶がある。
2月の怪我で改めてMRIを撮ったところ
前十字靭帯が損傷していたことがわかった。
もしかしたら、その時点までは繋がっていたかもしれないし、
既に無かったかもしれないが、そこは断言できないようだ。
院内用のスリッパを履いてトイレまでペタペタ歩きながらぼんやり考える。
12年前にヒザを痛めてなかったらどんな人生だったろう。
靭帯のある人生。
その頃に戻りたいか、とそんな問いが一瞬頭を過ぎったけれども、
答えは迷わずに「No」だ。
いろいろあったけれども、ここ数年でようやく自分の居場所が見つかった。
これ以上大切なことはない。それは揺るぎのない思い。
全身麻酔は身体の機能をすべて止め、人工呼吸器のお世話になる。
人工呼吸器がなければ、呼吸ができない状態。
死んでいるに等しい。
そんな状態になるのは初めてのことで、よく考えるとかなり恐ろしい。
今と同じように戻れるのか、全身麻酔よりも前のことを忘れたりしないのか
とか、余計な心配が思い浮かんでくる。
7時を過ぎて点滴をつけた。
右手首には入院者用のタグがあるため、左手首のあたりに針を刺す。
術後3日間は点滴を着けたままの生活。
用意された薄緑色の手術着に着替える。
浴衣のようだけれどそんな風情のあるものじゃない。
歯を磨きながら洗面所の鏡に映った自分の姿を見て
いよいよ手術らしくなってきたなと
どこか他人毎のように考えている自分がなんとなくおかしい。
手術の開始時刻は11時30分だったので、
家族はその2時間前に来る必要があった。
家人はキチンと9時30分前に来てくれた。
それだけで心強いし、幸せだなぁと感じる。
後から家人のご両親も駆けつけてくれるとのこと。
ただ、術後、しっかり会話ができるものなのかどうか。。。
いずれにしても大変ありがたい。
治ったらしっかりお礼をしなきゃいけない。
ここ数週間、胃の調子が悪いと言っている実家の母が、
たまたま今日、別の病院で胃の検査をすることになっていた。
検査をしっかり受けてもらって、何事もなければ万々歳。
ヒザの一つや二つ、しっかり治さねばと、自分を奮い立たせる。
点滴のポールを押しながら、家人とラウンジまで歩く。
ラウンジにある窓から国道467号が見える。
3Fの病室ということもあり、幾らか遠くまで見渡せるようだ。
知っている建物がないか見回すと、
少し遠くに湘南台駅の近くに建っている近未来的な建物が見える。
ということは南向きの窓だ。
国道467号は藤沢町田線と呼ばれた時代があり、
地元の人は藤町線ということもある。
昔からの街道で、古い家が密集して建っているが、
この30年くらいで少しずつスプロール化が進み
ロードサイドショップが建ち並んできた。
10時30分。前の手術が早く終わったらしく予定が早まった。
手術する足を間違えないよう、右足の親指の爪に油性マジックで○印を付けられる。
これで左足と間違えられることはない。
右手首のタグが汗でまとわりつくのが気になるが麻酔をされれば
そんなことはどうでもよくなるだろう。
看護師と家人、自分の3人で歩いて2Fの手術室へ。
ナースステーション裏手の手術用エレベーターへ乗り込む。
パスワードがかかっていて、一般の人が勝手に入れないようになっているそうだ。
ドアが開くと想像より開けたスペースの先に、幾つものドアがある。
それぞれが手術室になっているようだ。
ドアのところで家人とはお別れ。
手術室の入口までにはもう一つドアがあり、その手前で待機する。
しばらくすると執刀医、麻酔の医師、看護師二人の合計4人が手術室から出てきた。
帽子、マスク、服装、テレビドラマのようだけれども、
すべて自分の手術のための準備だと思うとさすがに緊張してきた。
全員に名前と手術するヒザの確認をされる。
ここでメガネを外せるかと聞かれたが、出来れば手術室までつけておきたいと伝える。
手術直前まで、なるべく視界も意識もしっかりしておきたい。
手術室で看護師にメガネを預ける。
極度の近視なので世界が一瞬でぼやける。
手術台に目を凝らすと身体を乗せる台と腕を置く台がある。
さながら十字架のようだ。
台の形に合わせて身体を乗せる。
天井にあるライトは一般的なライトだ。
ドラマで見るミラーボールのようなライトを想像していたが、
最近は違うのかもしれない。
酸素マスクを着けられる。マスクから緩い風圧を感じる。
ゆっくり吸い込むと、呼吸が楽になり、深い深呼吸をしたような感覚になった。
酸素が送られてきている。
数秒後、これから睡眠薬を流しますとの声。
どれくらい抗えるものか試したいと思っていたが
5秒も経たないうちに、意識は完全に無くなった。
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